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相続放棄の認知症について

認知症の方が相続人となり、その相続で被相続人が多額の借金を残していたような場合には、認知症の方の相続放棄の手続きが必要になります。

では、そのようなケースでは、どのように対応したらよいのでしょうか。以下で解説します。

認知症の方が相続放棄を行うのは難しい

認知症で、物事を理解する能力が全くない方が相続人となる場合があります。

被相続人が多額の借金を残して亡くなり、相続財産中、借金等のマイナスの相続財産の価額が、現金預金、不動産等のプラスの相続財産の価額を、大きく上回ることがあります。

このケースでは、相続放棄(相続に関する一切の権利を放棄しますという意思表示)を行うと、相続によって被相続人が作った借金を背負うことを回避できますので、合理的です。

しかし、認知症の方が相続人の場合は、認知症の方は意思表示ができませんから、相続放棄を行えず、本来は背負う必要のない被相続人の借金を背負うことになる場合があります。

認知症の方が相続放棄を行うには成年後見制度を活用する

では、認知症の方が相続放棄を行うことが全く不可能かというと、そうではありません。

成年後見制度を利用して成年後見人を選任すれば、認知症の方でも相続放棄を行うことができます。

成年後見人とは、認知症などで物事を理解する能力が全くない方の代理人となり、契約や遺産分割協議等の法律行為を行う者のことをいいます。

相続放棄も法律行為の1つなので、認知症等で物事を理解する能力が全くない方が、成年後見人を選任した場合、この成年後見人が本人に代わって相続放棄を行うことができます。

成年後見人の選任手続きについて

成年後見人を選任するには、本人、配偶者、一定の親族等の利害関係人が、家庭裁判所に後見開始の審判を請求します。

後見開始の審判によって、後見が必要であるという判断が下されると、家庭裁判所は、成年後見人を職権により選任します。

なお、後見開始の審判を請求する場合には、以下の書面を添えて、認知症等で物事を理解する能力が全くない方の住所を管轄する家庭裁判所の窓口に提出します。

1. 申立書(家庭裁判所のHPからダウンロードにより取得可能)
2. 診断書(認知症等で本人が物事を理解する能力を欠く状態であることを証明するもの)
3. 申立手数料(1通につき800円分の収入印紙)
4. 登記手数料(2,600円分の収入印紙)
5. 連絡用の郵便切手
6. 本人の戸籍謄本

さて、成年後見人が選任されると、東京地方法務局に保管されている後見登記ファイルに新たに選任された成年後見人に関する事項が掲載されます。

そして、後見登記ファイルに後見人に関する事項が記載されると、成年後見人に関する登記事項証明書の発行が可能になります。

この登記事項証明書があれば、成年後見人が本人に代わって様々な法律行為を行うことが可能になります。

成年後見人によって相続放棄を行う手続きについて

相続放棄の手続きは、被相続人が亡くなったことを知った時から3カ月以内に、相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出することで行います。

普通の方がこの申述を行う場合には、ほとんどの場合、本人が申述書を作成し、家庭裁判所に提出します。

しかし、認知症等で物事を理解する能力が全くない方の場合には、本人がその手続きを行うことはできないので、後見人が本人に代わって手続きを行います。

その方法は、まず、東京法務局民事行政部後見登録課から成年後見人の登記事項証明書を取り寄せます。

次に、以下の書面を揃えて、成年後見人が本人の代理人として、本人の住所地を管轄する家庭裁判所の窓口に提出します。

1. 相続放棄申述書(家庭裁判所のHPからダウンロードにより取得可能です。)
2. 収入印紙800円分
3. 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
4. 被相続人の除籍謄本
5. 被相続人と相続放棄を行う者との関係を証明する戸籍謄本等
6. 連絡用の郵便切手

なお、相続放棄申述書を、本人に代わって成年後見人が作成することは、言うまでもありません。