相続の『遺贈』と『死因贈与』の違いとは?
財産を引き継ぐ方法として一般的なものは『相続』と『贈与』があります。
相続は財産の所有者が図らずも死亡してしまい財産が移転すること、贈与は生前に意図的に財産の所有権を移転することです。
さて、相続と贈与のほかにも財産の所有権を持つ人が死亡することで財産の所有権が移転する手続きがあります。
それが『遺贈』と『死因贈与』です。
実際に触れてみないとなかなか馴染みのない遺贈と死因贈与ですが、特定の財産を子孫に残したり、第三者に所有権を移転するには有効な方法です。
今回は、遺贈と死因贈与について勉強し、それぞれのメリット・デメリットを知りましょう。
『遺贈』とは
遺贈とは、財産の所有者が死亡した時点で、遺言によって財産を譲ることを指します。
遺言書で「私が死亡したら○○の土地建物を長男△△に譲る」というふうに、財産と受贈者を指定して遺贈することを『特定遺贈』といいます。
一方、遺言書で「私が死亡したら、長男△△に財産の6割を、次男◇◇には財産の4割を贈与する」などのように財産を指定せず割合のみを指定することを『包括贈与』といいます。
包括遺贈は単に財産の割合を指定されるため、プラスの財産だけでなく、借入金や未払金のようなマイナスの財産も遺贈を受けることになります。
マイナス財産だけを相続放棄することもできません。
相続の場合は法定相続人ではない第三者が財産を相続することはできませんが、遺贈であれば遺言書によって法定相続人ではない第三者に財産を譲渡することが可能です。
遺贈は、財産の所有者が死亡して所有権が移転することから、相続と同じように考えられています。
たとえば、法定相続人が土地建物などの不動産の遺贈を受けた場合、相続の時と同様に不動産取得税は非課税とされています。
反対に、法定相続人ではない第三者が不動産の特定遺贈を受けた場合は相続と同視できないので不動産取得税が課せられますが、包括遺贈を受けた場合はマイナスの財産も課せられることになるので法定相続人と同等の責任が課せられていると判断され、不動産取得税は非課税になります。
『死因贈与』とは
死因贈与とは、財産の所有者が生前のうちに受贈者と契約し、その死亡後に所有権が移転されることです。
例えば「私が死亡したら○○の不動産をあなたに譲る」と双方が合意して契約すれば、所有者が死亡した時点で不動産の所有権を死因贈与されたことになります。
死因贈与の場合「財産を譲渡する代わりにこれをして欲しい」と条件をつけることで法定相続人ではない第三者への財産譲渡が可能です。
これを『負担付死因贈与』と言います。
たとえば「土地建物を譲渡する代わりに、残されたペットの犬を世話してやって欲しい」という条件で第三者に対して財産を譲渡することが可能になります。
死因贈与で重要なのは「双方の合意による契約」が必要な点です。
契約の形態は口頭でも書面でも可能ですが、後々の紛争を回避するためにも公正証書などで契約内容を担保しておく必要があるでしょう。
遺贈と死因贈与の違いとメリット・デメリット
遺贈と死因贈与の違いは「意思」にあります。
遺贈は遺言書による一歩的な意思表示であるため、受贈者の意思は関係ありません。
一方、死因贈与の場合は双方の契約に基づくため、意思が統一されたうえで行われることになります。
遺贈には、相続と同様の性格であるため不動産取得税が課税されないというメリットがある反面、遺言書をあけてみると一方的に自分の相続分が取り消されているかも知れないというデメリットがあります。
死因贈与は、双方の合意契約なので事前に何の財産を譲渡されるのか判明するというメリットがありますが、対象の財産が不動産の場合は法定相続人であっても4%の不動産取得税が課税されるというデメリットがあります。
不動産の所有権を移転する手続きに必要な登録免許税が相続人であっても一律2%が課税されることもデメリットのひとつでしょう。(相続の場合、法定相続人の登録免許税は0.4%)
また、いずれも遺言や契約によって財産や受贈者が決められるため、法定相続人から遺留分の侵害を受けたとする抗議を受け、紛争に発展するおそれがあります。
まとめ
遺贈と死因贈与について紹介しましたが、カンタンにおさらいしておきましょう。
- どちらも財産の所有者が死亡して財産の所有権が移転されることに変わりはないが、遺贈は遺言による一方的な意思表示、死因贈与は双方の契約によるものである
- 遺贈は相続と同様の性格を有しており、不動産取得税が非課税になるなどのメリットがある
- 死因贈与は、あらかじめ譲渡される財産を知ることができるが、不動産取得税や登録免許税が相続時よりも高くなる
- いずれの方法でも、法定相続人から遺留分の侵害を主張されるおそれがある
財産や相続人をあらかじめ指定したり、第三者に条件付で贈与することができる点から、いずれも財産の所有者の意図を反映できる方法として非常に有効です。
自分の死後、相続問題で法定相続人同士が争うようなことにならないためにも、遺贈や死因贈与は有効な手段となるでしょう。